📖 夢の王国とは

2022/07/02

夢の王国  峰山は不思議なことに国語の先生で、夢見学園では読書会を主催していた。 そして、アスカとさやかもそこに参加していた。 図書館での読書会が終わった後、峰山にさやかが質問した。


さやか
「今度先生が開かれたサイトは『夢の王国』という名前だと聞きました。 どういう意味があるんですか?」
峰山
「よく聞いてくれたね。 それは私の恩師といってもいい高橋康雄さんという方の 本の名前から取ったんだよ」
さやか
「それじゃ、パクリということですか?」
峰山
「パクリとはまた人聞きの悪い……献辞といってもらいたい。 亡くなった高橋さんもきっと喜んで許可してくれたに違いないんだ」
さやか
「『夢の王国』ってどんな本なんですか?」
峰山
「副題が少年少女小説の系譜となってる。 つまり大人が子供に読ませようとする児童文学ではなく、 子供が自分から読みたくて読む小説の作者たちを取り上げた本です」
さやか
「それって、違うんですか?」
峰山
「大違いですよ。 大人が読ませたいのは、しつけの一貫みたいなよい子の本で、 子供が読みたいのは、そういうのを取り払ったワクワクする驚きに満ちた本です」
さやか
「夢の王国は、やんちゃな子の世界というわけですか?」
峰山
「そういうわけじゃない。 でも、児童文学の系列にはほとんど夢が感じられなかった。 良心的な顔色をしたぼくねんじん文学で、 子供たちをひきつける魅力に欠けていたんですね。 高橋さんは黒岩涙香とか、江戸川乱歩、横溝正史などの作家を上げています」
さやか
「宮沢賢治はだめですか?」
峰山
「だめどころか、イの一番に入れたいくらいです。 賢治は少年小説としては書いていないけれども……」
さやか
トム・ソーヤの冒険「『トム・ソーヤ』とか『赤毛のアン』はどうですか?」
峰山
「高橋さんは海外の作品を夢の王国には入れてないんだ。 海外の児童文学には小じんまりとした良心の世界を粉砕して、 壮大な子供たちの世界観を描いた作品が多い。 その点でもう立派な夢の王国の作品です」
さやか
「じゃあ、何だって入るんじゃないですか?」
峰山
「そんなことはない。 いじめはだめ、親や先生の言うことを聞こうというような教訓が見えすいた作品、 今話題の性同一性問題や離婚に伴う子供の問題、 人間の死の問題をがんばってトライして考えましたみたいな課題図書、 そういうのは夢の王国じゃありません。 大人が子供に押しつける本です」
さやか
「夢の王国を表すような一言ってありますか?」
峰山
「理想郷に対するあくなき探究心があるかどうか」
さやか
「理想郷?」
峰山
「そう。 大人の文学には残念なことに理想郷が失われている。 それは子供の文学にだけ強烈に表れる世界。 だから、私は児童文学こそが文学らしい文学だと思うんです。 大学で学んだトルストイもそうした意味のことを言ってます」
さやか
「そうなんですか。 初めて聞きました」

 そのとき、ずっと黙っていたアスカが言いました。

アスカ
「ぼく、中学になったら、子供の本を卒業して、 大人の本を読まなきゃあダメだと言われました」
峰山
「それは違うね。 それを言ったのは、私がさっき言ったことがわかってない人です。 人間が生涯子供向けの作品しか読まなかったら、 世界はこんなに悪くはならなかったと思うよ」
アスカ
「先生のおすすめの作家は誰ですか?」
峰山
「そうだね。 トールキンとか宮沢賢治、SFのヴェルヌは夢がいっぱい、 モンゴメリやバーネット、 ケストナーも素晴らしい世界観をもった作品を描いてるね」
アスカ
「ふーん。 ぼくが読んだ作家は少ないな」
さやか
「あなた、どんな本、読んでたの?」
アスカ
「ズッコケ三人組とか、おしり探偵とか、はれときどきぶたとか……」
さやか
「あんまり中身が深い本じゃないことは確かね……」
峰山
「過去のせんさくより、これからの読書を大切にしたいね」
二人
「はい」
峰山
「このサイトは必ずしも本を扱うわけじゃないけど、その精神は『夢の王国』と同じなんだよ」

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