📚 横溝正史

2024/04/25

山名耕作の不思議な生活  とても短い作家評第2回です。

 横溝正史という作家に出会ったのは下宿生活を送っていた学生時代です。 近くに「野性時代」を購読していた友人がいて、 彼から連載中の『病院坂の首縊りの家』全巻を借り、 夜毎に読んではゾッとした気分を味わったものです。 当時角川映画の、市川崑監督の金田一ものがヒットしていて、 K氏とともによく映画館へ見にいっていました。 後年、K氏が市川監督の助手としてある作品の脚本を 監督と共同で書くことになろうとは夢にも思わず……。


 横溝作品のよさは、前時代風の耽美な風俗とおどろおどろしい殺人事件の 融合という点で、乱歩作品よりちょっと上品なのもいいです。 写真の『山名耕作の不思議な生活』に載った『双生児』という短編に その特徴がよく出ています。 尾崎唯介と結婚したよし子夫人は、双生児の兄弟である徹の影におびえます。 彼女は徹が夫を殺し、彼になりすましたという被害妄想を抱き、夫を殺害します。 しかし、精神医の青柳博士は唯介と徹は仲のよい兄弟だとし、 夫人の方を精神病患者と診断するのですが、真相は「藪の中」です。

 本格的推理小説作家とされ、代表作は『本陣殺人事件』と言われますが、 ぼくにとっての代表作は『病院坂』や『仮面舞踏会』のほうです。 『恐ろしき四月馬鹿』という処女短編集にも忘れられない味があります。 総じて、カストリ雑誌のゴシップを推理小説に仕立て上げる手腕では、 彼の右に出るものはいないでしょう。

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