📚 小松左京

2024/06/24

 とても短い作家評第13回です。

 小松左京は日本を代表するSF作家の一人です。 入念な取材に基づき、ある問題を理論的に追究しようとする姿勢が顕著で、 『虚無回廊』にみるように、それは読者や小説という枠組みをともすれば逸脱しかねません。 司馬遼太郎が歴史小説で行ったことをSFという分野でやろうとしたかのごとくです。

 今回は氏の作品の中から『日本沈没』を取り上げます。 この作品は氏の死後別のライターによって書きつがれますが、今はそれは扱いません。 小松氏はカタストロフィものが好きで、ここでは地震による日本の消滅という題材を扱っています。 同様の主題による著名作品となるとほとんど思いつかず、 この分野において『日本沈没』はきわめてユニークな作品といえます。


 南海トラフ地震関連で取り上げられることの多いプレートテクトニクス理論は、 この作品で初めて日本中に知れ渡ったといってもいいでしょう。 この理論と、深海潜水艇の観測を中心に進むこの物語は、 田所博士というマッドサイエンティストまがいの人物を配し、 必然的な絶望へと向かいます。 しかし、途中から日本の海外移住計画が結構なウェイトを占めるようになり、 ゆくゆく続編はさすらえる日本人問題というものに焦点を当てているようです。 地震災害のどの側面をどれだけ取り上げるかという点で、 この作品は大いに参考になるでしょう。

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