🎉 AIが人間を超える日

2022/06/25

さやか  「ではここまでです。本やノートをしまってください」 先生がこう言うと、日直の生徒があわてて「起立。礼」と声をかけた。 中学1年の生徒たちは立ち上がって、てんでに頭を下げた。 ここ、地方の進学校・夢見学園では、 入学後しばらく続いたオリエンテーションも終わり、普通の授業が始まっていた。


「峰山先生、質問なんですが」 長い髪で、目のくりくりした少女が教壇までやってきた。
「何かな、さやかさん」 峰山はにこにこしながら答えた。
「さっき言われたAIが人間を超える日というのが気になって、もう少し詳しく教えてもらえませんか?」

アスカ  すると、その後ろからもう一人の生徒がおずおずと顔をのぞかせた。
「あの、ぼくのも同じなんですが……」
「アスカ君も同じ質問ということかい?」
「その通りです」
 峰山は苦笑しながら話し出した。


峰山
「それはシンギュラリティーと言われています。 十年、二十年のうちにやってくると言われますが、 そうすると世界には重大な変化が訪れるんです」
さやか
「どんな変化ですか?」
峰山
「恐いことになるかもしれませんよ」
アスカ
「人類は滅びるんですか?」
峰山
「そういう人もいます。 私はそうは思いませんけどね」
さやか
「じゃあ、どうなるの?」
峰山
「AIは人間を必要とせずに進化できるようになります。 そうなると、 昔アシモフというSF作家が言ったロボット三原則をAIが守ってくれるかですが……」
アスカ
「ロボット三原則って?」
峰山
「ロボットは人間に従わなければならない、というようなことです」
さやか
「そんなきまりがあるの?」
峰山
「人間が作って、それをAIに守らせるといいっていうだけです」
さやか
「なーんだ」
峰山
「いずれにせよ、近い将来、 ロボットと人間の関係を全人類が深く考えなければならなくなるでしょう」
さやか
「偉い人たちが何とかしてくれるんでしょう?」
峰山
「さあ、どうですか ……核兵器やCO2の問題ですら満足に解決できていませんからね。 あの天才物理学者ホーキング博士も生前この問題をひどく心配していました」
アスカ
「じゃ、やっぱり人類はロボットに滅ぼされるのか……」
峰山
「ロボット対人間とか、 人間が一番とかいう発想を止めて、それぞれの価値を認めたらどうでしょう?」
さやか
「どういうこと?」
峰山
「男が女を滅ぼすなんてことがないように、 共存の文化をつくるってことです。 人類には新しい哲学・思想が必要なんですね」
アスカ
「ふーん」

 その時チャイムが鳴った。
「これは重要な問題だ。 これからきみたちがどう生きていくかにも関わってくる。 よく考えていきなさい。 今のところはこれで」
峰山はそう言うと、額の汗をふきながら職員室の方へ駆けていった。

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